はじめに
日本では少子高齢化と人口減少が進む中、空家問題が年々深刻化しています。総務省の住宅・土地統計調査(2018年)によると、全国の空家数は約849万戸に達し、住宅総数に占める割合は13.6%にものぼります。その中でも特に問題視されているのが「特定空家」です。
本記事では、行政書士の視点から、「特定空家」の定義、指定されるリスク、予防策、指定された後の対応、さらには所有者がとるべき空家管理の方法まで、幅広くわかりやすく解説します。
1. 特定空家とは何か?──法律上の定義と背景
1-1 空家対策特別措置法の制定
平成27年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、空家法)は、放置された空家が防災・衛生・景観・治安の悪化を招いていることを受けて制定されました。
この法律により、市区町村は「特定空家等」に該当すると判断した建物について、所有者等に対して適切な措置を講ずるよう勧告・命令し、最終的には行政代執行も可能となっています。
1-2 特定空家等の定義(空家法第2条2項)
以下のいずれかに該当すると、市区町村から「特定空家等」として指定される可能性があります。
- 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態(害虫・悪臭など)
- 適切な管理が行われていないことで著しく景観を損なっている状態
- その他周囲の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態
2. 特定空家に指定されるとどうなる?──行政処分の流れ
2-1 立入調査・指導・勧告
市町村の担当者が現地調査や周辺住民からの通報をもとに空家の状況を確認し、必要に応じて「指導」を行います。それでも改善が見られない場合、「勧告」が出されます。
2-2 勧告による固定資産税の軽減措置解除
空家であっても住宅用地特例により土地の固定資産税が最大6分の1に軽減されているケースがありますが、「特定空家」の勧告を受けるとこの特例が解除されます。つまり、税額が6倍になる可能性があるのです。
2-3 命令・行政代執行
勧告を無視し続けた場合、市町村は「命令」を出し、それに従わないと「行政代執行」が行われます。撤去費用などは所有者に請求されます。
3. 特定空家にならないためにできること
3-1 定期的な点検・メンテナンス
空家であっても、月に1回以上は訪れて、以下の点検を行いましょう。
- 屋根や外壁の劣化・破損
- 雨漏り・カビの発生
- 窓ガラスや施錠の確認
- 郵便物の整理
- 雑草の除去や庭木の手入れ
3-2 空家管理サービスの活用
遠方に住んでいる場合や時間が取れない場合には、空家管理サービスの利用が有効です。行政書士をはじめとした専門家に依頼することで、管理報告書の提出、現地対応、近隣住民との調整まで対応可能です。
3-3 近隣住民との連携
空家は周辺住民にとっても不安材料です。連絡先を伝えておくなど、トラブルの早期発見に協力してもらえる関係づくりが大切です。
4. それでも特定空家になってしまったら──行政書士ができる対応
4-1 行政からの通知への対応支援
勧告や命令を受けた際には、適切な期限内に対処する必要があります。行政書士は、行政文書の内容の確認や対策案の立案をお手伝いします。
4-2 所有者間の調整・相続登記のサポート
空家の多くは、相続登記が未了で所有者が複数いる場合があります。行政書士は、相続関係の調整や登記の前提となる書類作成などでサポートします。
4-3 空家解体の助成金申請サポート
市区町村によっては、特定空家の解体や修繕に対して助成金を出している場合があります。行政書士は、助成金の申請書類の作成・提出を代行可能です。
5. 空家を有効活用するための選択肢
5-1 賃貸・売却の検討
空家を放置せず、資産として活用することが最も理想的です。不動産会社と連携した売却や、古民家再生を通じた賃貸など、選択肢は多様です。
5-2 空家バンクの活用
各自治体が運営する「空家バンク」は、空家の売買や賃貸を希望する人とマッチングする仕組みです。登録や契約にあたり、行政書士の支援も可能です。
5-3 地域活動への提供・利活用
地域コミュニティのスペースや子育て支援の場として空家を活用する事例も増えています。NPOや地域団体と連携することで、空家が地域資源へと転換される可能性もあります。
6. 空家対策に強い行政書士の役割
行政書士は、空家対策に関して多角的な支援が可能です。たとえば:
- 相続未登記の空家に関する書類作成
- 特定空家指定に対する相談
- 空家活用に関する契約書作成
- 所有者不明土地関連の法的手続き
- 補助金や助成金の申請代行
特定空家に関する行政からの通知を放置すると、思わぬ損害を被る可能性があります。早めの相談・対応が何よりも重要です。
まとめ
空家を放置するリスクは、特定空家としての指定にとどまらず、資産価値の低下、近隣トラブル、さらには行政代執行による強制撤去など深刻な結果を招くことがあります。しかし、適切に管理し、計画的に活用することで、空家は新たな可能性を秘めた資源となります。
行政書士は、法的手続きや文書作成の専門家として、空家の予防・対応のすべてのフェーズで支援できます。「自分の家はまだ大丈夫」と思っている方こそ、早めの相談をおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1:特定空家に指定されると、すぐに撤去されてしまいますか?
A:いきなり撤去されることはありません。まずは市町村から指導や勧告が行われ、所有者に改善の機会が与えられます。
Q2:相続した家が空家で、兄弟で共有しています。どうしたらいい?
A:所有者全員の合意が必要です。まずは登記関係を整理し、行政書士に相談して遺産分割協議書の作成などを進めましょう。
Q3:解体費用が出せない場合はどうすれば?
A:自治体によっては、老朽化空家の解体に対する補助制度があります。行政書士が申請支援可能です。
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