~在留特別許可制度も踏まえて行政書士が解説~
はじめに
外国籍の方が日本で長く暮らし、やがて「日本国籍を取得したい」と考えるようになるのは、ごく自然な流れです。しかし、かつて**オーバーステイ(不法残留)**の経験がある場合、「帰化はもう無理かもしれない」と諦めてしまう方が多く見られます。
また、現在は在留資格がない状態で日本に滞在しながら、在留特別許可制度により合法的な在留資格を得ようと考えている方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、オーバーステイの影響と帰化申請の可能性について詳しく解説するとともに、「在留特別許可制度」という選択肢についても行政書士の視点から分かりやすくご紹介します。
1. オーバーステイとは何か?
オーバーステイとは、在留資格の期限を過ぎても日本に滞在し続けている状態を指します。これは「出入国管理及び難民認定法(入管法)」に違反する行為であり、厳密には「不法残留」として退去強制の対象となります。
よくあるオーバーステイの例
- 留学生が卒業後、在留資格を更新せずに滞在し続けた
- 観光ビザで入国したが、期限を超えて滞在
- 技能実習を途中で離脱し、他所で働いていた
オーバーステイは、**犯罪歴の一種(行政違反)**として扱われるため、のちのちの在留資格変更や永住許可、帰化申請の審査にも大きな影響を及ぼします。
2. 帰化申請の基本要件とオーバーステイの影響
日本国籍を取得するためには、帰化申請を行い、法務大臣の許可を得る必要があります。国籍法によって定められた帰化の主な要件は以下の通りです。
帰化申請の主な条件(簡略)
- 住所要件:引き続き5年以上日本に住んでいること(正規滞在)
- 能力要件:満18歳以上で法律上の行為能力を有していること
- 素行要件:善良な素行(犯罪歴・違反歴がない)
- 生計要件:生活が安定しており、自立していること
- 重国籍防止要件:原則として前の国籍を離脱できること
この中で、**オーバーステイ経験者が最も問題となるのは「素行要件」と「住所要件」**です。
素行要件への影響
オーバーステイ歴は「違法行為」として記録されており、帰化審査上はマイナス評価になります。特に、不法就労歴や退去強制歴がある場合には、より慎重に審査されます。
住所要件への影響
住所要件の「5年間の継続居住」は、あくまで合法的な在留資格を持っている期間が対象です。オーバーステイ期間はこれに含まれません。
つまり、「5年以上日本に住んでいる」としても、そのうちの一部または全部が不法滞在期間であれば、再カウントが必要になります。
3. オーバーステイ経験者でも帰化できる可能性はあるのか?
結論:可能性はあるが、審査は非常に厳しい
オーバーステイの過去があること自体が即不許可に直結するわけではありません。しかし、以下のような条件を満たす必要があります。
(1)十分な「更生期間」があること
実務上、オーバーステイ後に正規の在留資格を得て、5年~10年程度の期間を違反なく生活していることが求められます。
(2)現在の素行が良好であること
- 納税をきちんとしている
- 年金や社会保険を継続的に納めている
- 違法行為(無免許運転・飲酒運転・万引きなど)がない
(3)社会とのつながりが強いこと
- 日本人配偶者や子どもがいる
- 地域コミュニティに参加している
- 日本語での意思疎通に支障がない
これらの状況を総合的に判断して、法務局が「素行善良」と認めるかどうかがカギになります。
4. 現在も在留資格がない方の選択肢「在留特別許可」
在留特別許可とは?
現在、不法残留・オーバーステイの状態にある外国人に対して、出入国在留管理庁(入管)が個別に審査を行い、特別に在留を認める制度です。
法的には「退去強制事由に該当する者」であっても、人道的な配慮や在留状況などを踏まえ、在留特別許可が与えられることがあります。
典型的な許可例
- 日本人の配偶者や子どもがいる(定住性が高い)
- 長期間日本に居住している
- 日本語能力があり、日本での生活基盤が確立している
- 自主的に入管へ出頭し、誠実に対応している
許可されるとどうなるか?
在留特別許可が認められると、「特定活動」や「定住者」などの在留資格が与えられ、合法的に在留できる状態になります。
これにより、以下のような手続きが可能となります:
- 在留資格の更新・変更
- 永住許可の申請
- 帰化申請の土台作り
帰化申請までの流れにおける「在特」の役割
在留特別許可を受けたからといって、すぐに帰化申請ができるわけではありません。ここから**「合法的な在留5年以上」**という住所要件がスタートします。
つまり、「在留特別許可 → 正規在留 → 5年経過 → 帰化申請」
という段階を踏む必要があるのです。
5. 行政書士ができること
オーバーステイ歴がある方や現在在留資格のない方の帰化・在留特別許可の手続きは、非常に慎重な戦略と文書作成が求められます。
行政書士は以下のようなサポートが可能です:
帰化申請サポート
- 帰化申請書類の作成・添削
- 反省文・動機書のアドバイス
- 必要な収入・納税記録の整備
- 法務局との事前相談の付き添い
在留特別許可申請サポート
- 入管への出頭同行
- 嘆願書・陳述書の作成
- 配偶者・子どもに関する資料整理
- 在留資格取得後のフォローアップ(永住・帰化へ)
6. よくある質問(FAQ)
Q. オーバーステイ後に自主的に帰国し、再入国した場合は?
A. 自主的な帰国であっても、**上陸拒否期間(通常は5年間)**があります。再入国後の生活状況が良好であれば、帰化申請は可能ですが、5年以上の正規在留が必要です。
Q. 強制退去されたことがあるが、再び入国して正規在留している。帰化できる?
A. **非常に厳しいですが、可能性はゼロではありません。**10年以上違反がなく、安定した生活をしていることが絶対条件です。
Q. 在留特別許可を申請している最中に、就労は可能?
A. 原則として、不許可の間は就労不可です。仮放免中であれば就労も制限されます。在特が認められ、正式な在留資格を得た時点で、条件に応じた就労が可能になります。
まとめ
オーバーステイ経験者が帰化を希望する場合、ハードルは確かに高いものの、十分な準備と更生期間を経ることで、道は開けます。
また、現在在留資格がない方であっても、「在留特別許可」という制度を活用すれば、合法的な滞在への道筋をつけ、将来的な永住・帰化へとつなげることが可能です。
過去の過ちを正直に受け止め、日本で再出発したいという真摯な思いがある方に対して、私たち行政書士は全力で支援いたします。
まずは状況を丁寧にお伺いし、今できる最善の選択肢をご提案いたします。お気軽にご相談ください。
※本記事は2025年7月時点の法令・制度に基づいて執筆されています。個別事案については、必ず専門家にご相談ください。
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