はじめに
在留特別許可は、退去強制対象となる外国人について、法務大臣の裁量により 例外的・恩恵的 に在留を認める制度です。2024年6月10日に施行された出入国管理及び難民認定法の改正(令和5年改正法)に伴い、申請制度とその判断基準を明文化した「在留特別許可に係るガイドライン」が新たに運用開始されました。本記事では、ガイドラインの内容を軸に、最新の法制度と行政書士支援の観点から深く掘り下げます。
コンテンツ
- 在留特別許可とはどのような制度で、法的根拠はどこにあるのでしょうか?
- 在留特別許可の許可率はどの程度で、どういった要因で左右されるのでしょうか?
- 在留特別許可を受けると就労は可能になるのでしょうか?
- 在留特別許可と退去強制手続きはどのように関わっているのでしょうか?
- 在留特別許可を待つ間の仮放免とはどのような制度なのでしょうか?
- 在留特別許可に関する最新の改正動向はどのようなものなのでしょうか?
- 行政書士は在留特別許可にどのように関わり、どんなサポートができるのでしょうか?
在留特別許可とはどのような制度で、法的根拠はどこにあるのでしょうか?
在留特別許可は入管法に明文規定があるわけではなく、法務大臣の裁量に基づく制度です。法務省のガイドラインによれば、長期間日本に生活基盤を築いている外国人や、日本人配偶者や子を持つ外国人に対して人道上の観点から与えられることがあります。例えば、日本で10年以上生活し、地域に溶け込んでいる外国人が退去強制の対象となった場合、在留特別許可によって生活を継続できる可能性があります。
- 永住許可を受けていた
- かつて日本国籍(本籍)を有していた
- 人身取引など他者の支配下で来日している
- 難民認定または補完的保護対象者
- その他、法務大臣が特別な事情と認める場合
在留特別許可の許可率はどの程度で、どういった要因で左右されるのでしょうか?
法務省が公表している統計によると、在留特別許可の許可率は年によって変動しますが、必ずしも高いわけではありません。たとえば、2022年度の実績では数千件の申請がありましたが、許可されるのはその一部にとどまりました。判断基準としては、家族関係、日本での生活年数、素行、納税状況などが重要視されます。特に、日本人の配偶者や未成年の子がいるケースでは、子の利益が重視されやすい傾向があります。また、本人の健康状態や地域社会との結びつき、ボランティア活動や地域行事への参加など社会的評価も重要な判断材料となります。さらに、過去の犯罪歴や交通違反歴が軽微であるかどうか、生活費を自力でまかなえる経済的基盤があるかどうかといった点も細かく確認されます。例えば、10年以上日本で生活し、納税や地域活動に積極的に参加してきた外国人であれば、許可の可能性は比較的高まると考えられます。一方で、素行に問題がある場合や、過去に仮放免中に条件違反をした経歴がある場合は、不利に働く可能性が高くなります。このように、在留特別許可の可否は複数の要素が複雑に絡み合い、総合的に判断されているのです。
在留特別許可の判断においては、ガイドラインにより以下の考慮事情が列挙されています:
在留希望の理由
- 家族関係
- 素行・法的地位
- 入国経緯
- 滞在期間・定着性
- 退去強制に至った事実
- 人道的配慮の必要性
- 内外の情勢や在留制度への影響
- その他、個別の状況
積極要素:許可に向かいやすい事情
ガイドラインでは、以下が「特に考慮すべき積極要素」とされます
- 日本人または特別永住者の子
- 実子を扶養(未成年・親権あり・日本国内で監護)
- 日本人/特別永住者との婚姻が成立し安定的
- 日本で教育を受ける実子の監護・養育
- 難病等の治療必要、あるいは看護必要な親族
さらに「その他の積極要素」として:
- 出頭申告による逃亡意思不在の表明
- 在留資格のある家族との関係
- 長期間の日本定住性
- その他人道上の特別事情
消極要素:許可を得にくい事情
特に不許可判断に影響する「特に考慮する消極要素」は次のとおりです
- 重大犯罪歴(凶悪犯罪、麻薬・拳銃密輸など)
- 入管行政の根幹に関わる違反(不法就労助長、密航、助長行為、人身取引等)
その他の消極要素として:
- 密航・偽造入国歴
- 過去の退去強制歴
- 素行不良や在留状況に問題
✅ 許可されやすい事例(一例)
- 日本人配偶者と未成年の子が同居している(夫婦関係の実態確認)
- 長年出頭申告のもと安定生活を送っていた
- 日本で生まれ、日本の学校に通う子どもを養育中である
- 家族全員(複数名)が同時に出頭申告し、在留実績が長い
これらは積極要素が重なっており、許可獲得に繋がっています。
❌ 不許可になりやすい事例(一例)
- 夫婦間に子どもがなく、婚姻実態に疑義がある
- 身分詐称や犯罪歴がある
- 在留希望に日本特有の必要性が認められない
- 出頭直後に犯罪摘発、判決を受けたケース
これらは消極要素が優勢で許可が見送られています。
総合評価による判断
ガイドラインでは、積極要素が消極要素を明らかに上回る場合に「在留特別許可の方向で検討」とされ、一つの要素だけで決まる訳ではないと明確にされています。
在留特別許可を受けると就労は可能になるのでしょうか?
在留特別許可を受けると、通常は「定住者」や「日本人の配偶者等」といった在留資格が付与されます。これにより、幅広い職種での就労が可能となります。逆に、許可が下りるまでは就労活動が制限され、経済的に困難な状況に置かれることもあります。そのため、申請中の生活支援や、地域社会からのバックアップが重要になります。
在留特別許可と退去強制手続きはどのように関わっているのでしょうか?
在留特別許可は、退去強制手続きの過程で最終的に認められるものであり、事実上、退去強制と密接に関連する制度です。通常、在留資格を持たない外国人が入管当局に摘発された場合、退去強制手続きに入り、収容や出頭命令が行われます。その間に本人の家族構成、居住歴、納税状況、社会的評価など、多岐にわたる事情を総合的に考慮し、法務大臣が特別に残留を許可することがあるのです。つまり、退去強制と在留特別許可は表裏一体であり、前者があるからこそ後者が存在する関係にあります。過去には、日本で生まれ育った子どもや長年生活基盤を築いた家族が退去強制の対象となり、社会的支援や世論の後押しによって特別許可が認められた事例もあります。また、地方自治体や支援団体からの推薦状、雇用者からの嘆願書なども許可判断に影響を与えることがあり、個々のケースでの裁量判断が極めて重要な役割を果たしています。
在留特別許可を待つ間の仮放免とはどのような制度なのでしょうか?
仮放免とは、退去強制手続き中に収容されている外国人を一時的に釈放する制度です。在留特別許可が下りるまでには数か月から年単位の時間がかかることもあり、その間に家族と過ごすためや健康上の理由で仮放免が許される場合があります。ただし、仮放免中は就労が認められず、定期的に入管への出頭が義務付けられています。このため、地域社会や支援団体の援助が不可欠です。
在留特別許可に関する最新の改正動向はどのようなものなのでしょうか?
2025年現在、入管法や関連ガイドラインの改正が進められており、特に長期収容の是正や人道的配慮の明確化が議論されています。過去の批判を受け、仮放免中の生活保障や、家族との分離を回避するための新たな指針が検討されています。さらに、難民認定申請者との制度的な整合性を高める動きもあり、外国人の人権保護と入管行政のバランスをどのように取るかが大きな課題となっています。
行政書士は在留特別許可にどのように関わり、どんなサポートができるのでしょうか?
行政書士は、在留特別許可の申請手続きにおいて重要な役割を果たします。具体的には、申請に必要な書類の収集・整理、法務省や入管局の最新ガイドラインに基づく申請書類の作成、提出期限やフォーマットの確認など、申請の形式面と内容面の両方をサポートします。また、許可の可能性を高めるために、本人の生活歴、家族構成、社会的関係、納税状況、地域での活動実績などを整理して資料化することも行政書士の重要な仕事です。
まとめ
在留特別許可は、外国人が日本で生活を続けるための「最後の砦」ともいえる制度です。しかし、その許可率は高くなく、準備不足では認められにくいのが現実です。最新の改正動向を踏まえつつ、行政書士などの専門家の支援を受けることで、許可の可能性を高めることができます。

