〜建築基準法の接道義務と再建築の制限を理解し、後悔しない選択を〜
はじめに:相続した家が「建て替えできない」と言われたら?
「親から実家を相続したけれど、老朽化が激しくて建て替えを検討したところ、“再建築不許可物件なので建て替えできません”と言われた……」
こうしたご相談は、都市部や古い住宅地では決して珍しい話ではありません。特に昭和30〜40年代に整備された住宅地では、現在の建築基準法に適合していない土地が数多く存在します。
この記事では、「再建築不許可物件とは何か」「建て替えがなぜできないのか」「救済策はあるのか」など、相続実務の視点から解説いたします。行政書士として相続や空家対策の業務に携わる方にとって、非常に実践的な内容となっています。
1. 再建築不許可物件とは?
■ 建築基準法の接道義務が鍵
再建築不許可物件(再建築不可物件)とは、現在の法律に適合していないために、「建て替えができない土地付きの建物」のことをいいます。最大の要因は、建築基準法第43条に定められた接道義務です。
【建築基準法 第43条 第1項】
建築物の敷地は、道路に2メートル以上接していなければならない。
この規定が満たされていない土地では、新たな建築物の建築確認が下りません。結果として、古家が老朽化しても新しい家を建てることができない状態になってしまうのです。
■ よくある再建築不可の例
- 建物の敷地が、幅4m未満の私道や位置指定されていない通路にしか接していない。
- 道路に面していない袋地で、他人地を通らないと公道に出られない。
- 2m以上接していないため、接道義務を満たさない。
2. 「再建築不可」だと何が困るのか?
再建築不許可物件であることが判明すると、以下のような問題が生じます。
❌ 建て替えできない
→ 安全面での問題(耐震・老朽化)があるにもかかわらず、建物を取り壊して建て替えることができません。
❌ 売却が困難
→ 購入者にとっても価値が低いため、市場価格が大幅に下がります。住宅ローンの対象にもなりにくいです。
❌ 空き家化・放置リスク
→ 修繕費もかけられず、老朽化して「特定空家」に指定されるおそれがあります。
3.建て替えはダメだけど…リフォームは出来る?
建築基準法における「建替え(建て替え)」という言葉は、法律上は「既存建物を除却して、新たに建築物を建築する行為」を指します。よくある誤解ですが「内装をすべてやり直す」「柱を残して壁や屋根を新しくする」といったリフォームや大規模修繕は、法的には「建替え」ではありません。例えば、「建物を一度すべて解体して、同じ場所に新しい建物を建る」といった「建築確認」が必要な場合には「建替え」となり接道要件を満たしていなければ建築許可が下りず、建物が建てられないことになります。つまり、「建築確認」が必要ない程度であれば「建替え」にあたらず、増改築は出来るということになります。
※個々それぞれの詳細な判断につきましては各自治体等に確認することをおすすめします。
4. 相続した実家が再建築不可だった場合の対応
相続した不動産が再建築不許可物件だった場合、感情面とは別に法的・実務的な選択を迫られます。以下に、主な対応策を解説します。
(1)現状のまま使用・賃貸する
リフォームや修繕にとどめ、現状の建物を可能な範囲で使用する方法です。住むことも可能ですが、構造に大きく手を入れることはできないため、耐震性や安全性を確認する必要があります。
✅ ポイント
- 小規模な修繕は可能(建築確認不要)
- 賃貸する場合は、瑕疵担保責任や告知義務に注意
(2)43条2項2号の許可を検討する
再建築を可能にする例外的な制度が「建築基準法第43条第2項2号の許可」です。これは、特定行政庁(自治体)が個別に認める場合に限り、接道義務を満たしていなくても建築を許可する仕組みです。
【建築基準法 第43条 第2項2号】
特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて、建築審査会の同意を得た場合にはこの限りでない。
(3)道路の持分取得や整備による接道確保
隣接する道路や通路の一部の持分を取得したり、拡幅・舗装を行うことで、接道義務を満たす方法です。
✅ ポイント
- 私道所有者との交渉が必要
- 費用・時間がかかる
- 境界確定・測量が必須
(4)売却・等価交換を検討する
状況によっては、自分で再建築を目指すのではなく、買取業者や不動産会社に売却する選択肢もあります。また、隣接地所有者との等価交換や敷地の合筆で接道義務をクリアするケースもあります。
5. 相続登記と再建築不可の問題
相続によって再建築不許可物件を取得した場合でも、相続登記は必ず行う必要があります。登記をしないまま放置すると、以下のようなリスクが高まります。
❗ 相続登記をしないリスク
- 固定資産税の納税通知が届かない
- 売却や活用の意思決定ができない
- 特定空家に指定された際の責任が曖昧
✅ 相続登記と空家特例の関係
2024年4月より「相続登記」が義務化されました。相続しても適切に登記がされず、所有者不明の土地が建物が増え続けたため決定されました。相続した不動産がある場合、3年以内に登記をしなければならない。正当な理由がなければ、10万円以下の罰金が科される可能性があります。また今回の改正では住所変更登記も義務化されます(2026年より)。それぞれ早めの法的対応が求められます。
6. 行政書士ができるサポート
再建築不許可物件に関する相談には、行政書士として以下のような支援が可能です。
■ 相続手続きの支援
- 相続人調査
- 相続関係説明図の作成
- 遺産分割協議書の作成
- 相続登記に必要な書類の整備(司法書士連携)
■ 接道調査・法令調査
- 土地の接道状況の調査(公図、建築計画概要書など)
- 地元自治体との協議
- 許可申請の支援(建築士や設計士との連携)
■ 空家・再建築不可物件の処分支援
- 地元の空家バンク登録の手続き
- 空家管理契約の締結
- 売却・等価交換に関する行政手続き支援
7. よくあるQ&A
Q:リフォームなら再建築不可でもできるの?
A:できます。ただし、「構造部分に大きな変更を加えない」「床面積が10㎡を超えない増築である」など、条件付きです。工事前に確認を。
Q:43条2項2号許可は簡単に取れますか?
A:簡単ではありません。自治体ごとに厳格な基準があり、建築審査会の同意が必要です。事前相談が重要です。
Q:古家を解体して更地にしたらどうなりますか?
A:再建築不可のまま、空き地になります。固定資産税の住宅用地特例(1/6課税)も受けられなくなり、税負担が増える場合があります。
8. おわりに:将来の選択のために「知ること」が第一歩
「相続した家がある」ということは、一見するとありがたい話に思えます。しかし、それが再建築不許可物件であった場合、手放しに喜べるとは限らないのが現実です。
しかし、正しい情報をもとにすれば、選択肢は必ず見つかります。
- 現状維持か
- 再建築の道を探るか
- 売却か
- 活用か
行政書士は、法律と行政実務の両面から、相続人の意思を実現するための橋渡しをする存在です。ぜひ、お気軽にご相談ください。
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