
はじめに
「いずれは考えなきゃいけないけれど、まだ先の話」――そう思って、ご実家やご先祖様のお墓に関する問題を先送りにしていませんか?
全国の空き家は約900万戸に迫り、そのうち「特定空家」など管理不全となる可能性が高い物件は増え続けています。さらに、お墓も無縁仏となるケースが増加の一途をたどり、「墓じまい」の件数は年間15万件を超えました。
少子高齢化、核家族化が進む現代において、「実家じまい」と「墓じまい」は、残されたご家族にとっての喫緊の課題です。特に、親御様が認知症になったり、亡くなってしまったりした後では、法律上・手続き上、取れる選択肢が極端に狭まってしまいます。
**「親が元気なうち」に行動を起こすことこそが、家族間のトラブルを避け、手間や費用を最小限に抑え、未来の安心を買う唯一の「正解」**です。
本記事では、宅地建物取引士である専門家が、実家と墓の放置リスクから、親が元気なうちに取るべき具体的な行動、そして売却や墓じまいの具体的な手続きまでを、分かりやすく解説します。
今すぐ対策を始めることで、ご自身とご家族の将来の負担を大きく軽減することができます。
コンテンツ(目次)
- 実家と墓を放置する3大リスク!「特定空家」と「無縁仏」の危機
- 空き家放置リスク1:固定資産税が最大6倍になる!?「特定空家」とは
- 空き家放置リスク2:老朽化による賠償責任と管理コスト
- 墓放置リスク:お墓の撤去や無縁化によるトラブル
- 「親が元気なうち」が絶対条件!実家じまい・墓じまい準備の5ステップ
- ステップ1:実家の「現状把握」と「資産リスト」の作成
- ステップ2:「家族会議」で意思を統一する重要性
- ステップ3:実家の終着点(売却・賃貸・活用)をシミュレーション
- 【実家編】売却・相続で困らないための具体的な手続きと知識
- 「空き家の特例」を活用!3,000万円控除の適用要件
- 実家を「売却」する際の流れと高く売るための注意点
- 「相続」で揉めないための遺言書・家族信託の活用
- 【お墓編】スムーズな「墓じまい」手続きと新しい供養方法
- 墓じまいの流れ:お寺との交渉から「改葬許可証」の取得まで
- 新しい供養方法の選択:永代供養・納骨堂・樹木葬のメリット・デメリット
- 墓じまいの費用相場と準備すべきこと
1. 実家と墓を放置する3大リスク!「特定空家」と「無縁仏」の危機
1-1. 空き家放置リスク1:固定資産税が最大6倍になる!?「特定空家」とは
実家を誰も住まない状態で放置する最大のデメリットの一つが、固定資産税の優遇措置の解除です。
通常、居住用の建物が建っている土地には「住宅用地の特例」が適用され、固定資産税が最大で6分の1に減額されています。しかし、管理が不十分な空き家が、2014年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)」に基づき**「特定空家」**に指定されると、この特例が解除されてしまいます。
【具体例】 評価額2,000万円の土地(小規模住宅用地)にかかる固定資産税は、特例適用で年間約4万円だったとします。これが特定空家に指定されると、特例が解除され、固定資産税は年間約24万円と最大6倍に跳ね上がります。さらに、2023年改正の空家法により、放置された空き家は「管理不全空家」の指定対象となり、特定空家になる前に固定資産税の特例解除を受けるリスクが高まっています。
1-2. 空き家放置リスク2:老朽化による賠償責任と管理コスト
放置された空き家は、老朽化が進み、倒壊の危険性や衛生上の問題を引き起こします。これが原因で第三者に損害を与えた場合、所有者が賠償責任を負うことになります。
【具体例】 老朽化した実家の瓦が台風で飛散し、隣家の車や住人に怪我を負わせた場合、建物の管理責任を問われ、損害賠償請求の対象となります。また、庭木の枝が伸び放題になり、近隣住民から苦情が寄せられるなど、人間関係のトラブルにも発展しかねません。さらに、定期的な草刈りや換気などの最低限の管理だけでも、遠方から実家に行く手間や、業者への依頼費用(年間数万円〜数十万円)が発生し続けることになります。
1-3. 墓放置リスク:お墓の撤去や無縁化によるトラブル
実家のお墓も、承継者がいないまま管理が滞ると「無縁墳墓」となり、最終的には自治体や墓地の管理者が勝手に撤去できるようになってしまいます。
【具体例】 故郷から遠く離れた寺院墓地にあるお墓を、高齢になり管理できずに数年間放置してしまった場合、墓地の管理者は立て札などで承継者に連絡を試みます。それでも連絡が取れない、または承継者が管理を拒否した場合、法律に基づきお墓は撤去され、ご遺骨は合葬されます。これはご先祖様との縁が絶たれるだけでなく、無縁化に至る前に管理者の許可なく墓石を動かすとトラブルになるなど、精神的・法的な負担が大きくなります。事前に「墓じまい」(改葬)をすることで、お寺や霊園との関係を円満に解消し、納得のいく形で供養を終えることが大切です。
2. 「親が元気なうち」が絶対条件!実家じまい・墓じまい準備の5ステップ
2-1. ステップ1:実家の「現状把握」と「資産リスト」の作成
実家じまいの第一歩は、親御様が元気なうちに、ご実家に関する正確な情報を把握することです。特に、「認知症」などで判断能力が衰えてしまうと、実家(不動産)の売却や処分は、原則としてできなくなります。
【具体例】 親御様と一緒に、以下の重要書類を一つにまとめ、リスト化してください。
- 不動産関連: 権利証(登記識別情報)、固定資産税の納税通知書、建築図面
- 金融資産: 預貯金通帳、保険証券、証券口座の資料
- 負債関連: ローン契約書、賃貸借契約書(親御様が借りている場合)
- お墓関連: 墓地使用許可証、寺院の過去帳、檀家証 これらの情報が揃っていれば、後々の売却や相続の手続きが格段にスムーズになります。特に不動産の権利証は、再発行ができないため、保管場所を家族で共有しておくことが非常に重要です。
2-2. ステップ2:「家族会議」で意思を統一する重要性
実家じまい・墓じまいは、一人の意思で進められるものではありません。ご家族(親・子・兄弟姉妹)間で、実家と墓に対する「親の意思」と「子の希望」を共有し、合意形成をすることが、後のトラブルを未然に防ぎます。
【具体例】 「実家は誰が継ぐのか?」「お墓は守っていくのか?」といったデリケートな問題を、親御様が元気なうちに話し合ってください。この会議で**「親の意思」**を明確に文書化しておくことが重要です。例えば、「将来的には実家を売却し、売却金を介護費用に充てたい」「自分たちの代で墓じまいをし、永代供養に切り替えたい」といった意向を、親御様自身の言葉で記録しておきましょう。この記録は、後に親御様が判断能力を失った際や、相続時に兄弟間で意見が対立した際の重要な指針となります。
2-3. ステップ3:実家の終着点(売却・賃貸・活用)をシミュレーション
家族の意思が固まったら、実家をどうするか、具体的な出口戦略を立てます。実家を手放す「売却」だけでなく、誰かに使ってもらう「賃貸」や「空き家バンクへの登録」など、幅広い選択肢を検討します。
【具体例】
- 売却シミュレーション: 不動産業者に査定を依頼し、現在の市場価格と売却にかかる費用(仲介手数料、税金など)を把握します。もし売却するなら、「いつ頃」「どれくらいの価格で」を親御様の介護・生活資金計画に組み込みます。
- 賃貸シミュレーション: リフォーム費用と家賃収入を比較し、収益化の可能性を検討します。賃貸にすれば「特定空家」化は避けられますが、賃貸人とのトラブル対応や修繕費用が発生するリスクも考慮が必要です。 最も重要なのは、親御様の介護や老後の資金計画と、実家の処分時期を連動させることです。売却金を充てるなら早めに準備が必要ですし、親御様が施設に入所するタイミングで売却する計画であれば、その数年前から動き始める必要があります。
3. 【実家編】売却・相続で困らないための具体的な手続きと知識
3-1. 「空き家の特例」を活用!3,000万円控除の適用要件
実家を売却する際、非常に有利になるのが「被相続人の居住用財産(空き家)を売却した場合の3,000万円特別控除の特例」です。この特例が適用できれば、譲渡所得(売却益)から最大3,000万円が控除され、税負担を大幅に軽減できます。
【具体例】 特例の適用には、いくつかの厳しい要件があります。
- 対象となる空き家: 昭和56年5月31日以前に建築された建物であること。
- 住んでいた期間: 親御様が亡くなる直前まで住んでいたこと。
- 売却の期限: 相続開始日(親御様が亡くなった日)から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること。 特に注意が必要なのが、売却時には建物を取り壊して更地にするか、または現行の耐震基準を満たすリフォームが必要になる点です。この特例を確実に使うためにも、親御様が亡くなる前から、実家の状態と売却時期について専門家(不動産会社、税理士)に相談しておくことが必須です。
3-2. 実家を「売却」する際の流れと高く売るための注意点
実家を売却する際は、一般の不動産売買とは異なる「親の想いを引き継ぐ」という側面があります。売却プロセスを知り、価値を最大限に高める工夫が必要です。
【具体例】 売却は、主に以下の流れで進みます。
- 不動産会社選びと査定: 地元の市場に詳しい会社数社に査定を依頼し、比較検討します。
- 媒介契約の締結: 仲介を依頼する会社と契約を結びます。
- 内覧・交渉: 購入希望者の内覧を受け付け、価格や引渡し時期の交渉を行います。
- 売買契約・決済: 契約書を交わし、買主から残金を受け取り、所有権移転登記を行います。 高く売るための注意点として、「リフォームしない判断」があります。築年数が古い実家は、中途半端にリフォームするよりも、買主が自由に改築できる状態(現状渡し、または更地)で売却した方が、結果的に高値になるケースが多いです。売却前に、必ず複数のプロの意見を聞きましょう。
3-3. 「相続」で揉めないための遺言書・家族信託の活用
実家を相続する際、最も多いトラブルが「誰が実家を継ぐか」です。この問題を避けるためには、親御様が元気なうちに、法的に有効な対策を講じておくことが不可欠です。
【具体例】
- 遺言書の作成: 「長男に実家を相続させる」など、親御様が明確な意思を示すことで、相続発生後の争いを防げます。特に「公正証書遺言」は、形式不備で無効になるリスクがなく、強力な対策となります。
- 家族信託の活用: 親御様(委託者)が、元気なうちに、子(受託者)に実家の管理・処分権限を託す仕組みです。親御様が認知症になっても、受託者である子が実家を売却したり、賃貸に出したりすることが可能になります。認知症による不動産凍結リスクを回避するための、最新かつ強力な手段として注目されています。
4. 【お墓編】スムーズな「墓じまい」手続きと新しい供養方法
4-1. 墓じまいの流れ:お寺との交渉から「改葬許可証」の取得まで
墓じまい(改葬)は、単にお墓を撤去するだけでなく、法的な手続きと、お寺や霊園との丁寧な話し合いが必要です。特に寺院墓地の場合、お寺(住職)との関係を円満に解消することが、スムーズな進行の鍵となります。
【具体的な流れ】
- 寺院・霊園への相談・交渉: 墓じまいをしたいという意思を丁寧に伝え、理解を求めます。
- 新しい納骨先の決定: 永代供養墓、納骨堂、樹木葬など、改葬先を決め、使用許可証を取得します。
- 「改葬許可申請」: 現在お墓がある市区町村役場に申請し、「改葬許可証」を発行してもらいます。
- 閉眼供養(魂抜き): お墓からご遺骨を取り出す前に、僧侶に供養をお願いします。
- 遺骨の取り出し・墓石の撤去: 専門業者に依頼し、墓石を更地に戻します。 トラブル防止の注意点として、「離檀料」の問題があります。お寺に所属する檀家が離れる際に求められる費用ですが、法律上の明確な規定はありません。事前に誠意をもって相談し、金額で揉めないよう進めることが重要です。
4-2. 新しい供養方法の選択:永代供養・納骨堂・樹木葬のメリット・デメリット
墓じまい後のご遺骨の行き先は、家族のライフスタイルや価値観によって多様化しています。自分たちが将来にわたって管理する「一般墓」以外の選択肢を検討しましょう。
【代表的な供養方法と特徴】 | 供養方法 | メリット | デメリット | | :— | :— | :— | | 永代供養墓 | 費用が比較的安く、承継者不要。管理は霊園・寺院が行う。 | 他の方のご遺骨と合葬(合祀)されるケースが多く、後から取り出せない。 | | 納骨堂 | 駅近くなどアクセスが良い場所が多い。天候に関係なくお参りできる。 | 管理料が毎年かかる。スペースが限られ、一般墓のような開放感はない。 | | 樹木葬 | 自然に還るイメージで、景観が良い。永代供養とセットが多い。 | 埋葬場所の確認が必要(公園型か里山型か)。植栽の管理ルールがある。 |
専門家からのアドバイスとして、ご家族で新しいお墓を「見学」することをお勧めします。パンフレットやウェブサイトの情報だけでなく、実際の雰囲気やアクセス、管理状況を体感することで、納得のいく供養方法を選ぶことができます。
4-3. 墓じまいの費用相場と準備すべきこと
墓じまいには、「墓石の撤去費用」「離檀料(お布施)」「新しい供養先の費用」など、複数の費用が発生します。事前に全体の予算感を把握しておくことが大切です。
【費用の目安】
- 墓石の解体・撤去費用: 10万円〜30万円(墓地の広さや立地による)
- 離檀料・お布施: 5万円〜20万円(寺院との関係による)
- 新しい納骨先の費用: 永代供養合葬で10万円〜、個別納骨で50万円〜150万円
準備すべきことは、費用だけでなく、親族への根回しです。特に、遠い親戚やご先祖様のお墓を管理していた親戚には、墓じまいを進めることを事前に丁寧に伝え、理解を得ておくことが、後々の人間関係のトラブルを避ける上で最も重要になります。

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