はじめに
特別在留資格(より正確には在留特別許可)は、退去強制対象となる外国人について、法務大臣の裁量により 例外的・恩恵的 に在留を認める制度です。2024年6月10日に施行された出入国管理及び難民認定法の改正(令和5年改正法)に伴い、申請制度とその判断基準を明文化した「在留特別許可に係るガイドライン」が新たに運用開始されました。本記事では、ガイドラインの内容を軸に、最新の法制度と行政書士支援の観点から深く掘り下げます。
1. 制度の位置づけと法的根拠
(1) 改正法による制度化と申請手続きの創設
令和5年の入管法改正により、退去強制対象者でも、以下の事情に該当すれば、本人の申請または職権で法務大臣が在留を許可できる制度が創設されました.
- 永住許可を受けていた
- かつて日本国籍(本籍)を有していた
- 人身取引など他者の支配下で来日している
- 難民認定または補完的保護対象者
- その他、法務大臣が特別な事情と認める場合
(2) ガイドラインの趣旨と透明性・公平性の強化
ガイドラインは、判断の透明性・公平性を確保するために、積極要素と消極要素に基づく総合的評価のフレームを明示しています。
2. 判断の軸となる考慮事項(ガイドラインに基づく)
(1) ガイドラインが挙げる考慮事情の一覧
在留特別許可の判断においては、ガイドラインにより以下の考慮事情が列挙されています:
- 在留希望の理由
- 家族関係
- 素行・法的地位
- 入国経緯
- 滞在期間・定着性
- 退去強制に至った事実
- 人道的配慮の必要性
- 内外の情勢や在留制度への影響
- その他、個別の状況
(2) 積極要素:許可に向かいやすい事情
ガイドラインでは、以下が「特に考慮すべき積極要素」とされます
- 日本人または特別永住者の子
- 実子を扶養(未成年・親権あり・日本国内で監護)
- 日本人/特別永住者との婚姻が成立し安定的
- 日本で教育を受ける実子の監護・養育
- 難病等の治療必要、あるいは看護必要な親族
さらに「その他の積極要素」として:
- 出頭申告による逃亡意思不在の表明
- 在留資格のある家族との関係
- 長期間の日本定住性
- その他人道上の特別事情
(3) 消極要素:許可を得にくい事情
特に不許可判断に影響する「特に考慮する消極要素」は次のとおりです
- 重大犯罪歴(凶悪犯罪、麻薬・拳銃密輸など)
- 入管行政の根幹に関わる違反(不法就労助長、密航、助長行為、人身取引等)
その他の消極要素として:
- 密航・偽造入国歴
- 過去の退去強制歴
- 素行不良や在留状況に問題
(4) 総合評価による判断
ガイドラインでは、積極要素が消極要素を明らかに上回る場合に「在留特別許可の方向で検討」とされ、一つの要素だけで決まる訳ではないと明確にされています。
3. 改定内容のポイントと留意点
(1) 長期滞在の扱いの変化
これまで定着性の証として評価されていた長期滞在が、改定後は「出入国管理秩序の侵害」として 消極要素とされる可能性が明記されましたさ。
(2) 退去強制命令後の事情変更の制限
従来は退去命令後でも事情変更が考慮され得ましたが、新ガイドラインでは原則として考慮されないと明示された点が大きなポイントです。
(3) 家族・子どもの利益配慮の課題
新ガイドラインでは子の利益や家族結合を積極要素として評価する一方、具体判断において親の事情に左右されうる内容もあり、実務での慎重な対応が必要です。
4. 許可・不許可事例から学ぶ実務感覚
出入国在留管理庁が公表する許可/不許可事例をみると、以下の傾向が明らかです
✅ 許可されやすい事例(一例)
- 日本人配偶者と未成年の子が同居している(夫婦関係の実態確認)
- 長年出頭申告のもと安定生活を送っていた
- 日本で生まれ、日本の学校に通う子どもを養育中である
- 家族全員(複数名)が同時に出頭申告し、在留実績が長い
これらは積極要素が重なっており、許可獲得に繋がっています。
❌ 不許可になりやすい事例(一例)
- 夫婦間に子どもがなく、婚姻実態に疑義がある
- 身分詐称や犯罪歴がある
- 在留希望に日本特有の必要性が認められない
- 出頭直後に犯罪摘発、判決を受けたケース
これらは消極要素が優勢で許可が見送られています。
5. 行政書士による支援ポイント
(1) 事前評価と戦略立案
ガイドラインに基づき、積極/消極要素を整理し、申請の見通しを判断。必要書類や説明構成を戦略的に設計します。
(2) 書類作成と事情説明
判断の要となる反省文、経緯書、生活実態証明文書などを、ガイドラインの「考慮事情」に沿って論理的に構成。法務大臣の判断を後押しする説得力ある資料を作成します。
(3) 行政対応のサポート
入管局との補足資料や問い合わせ対応、必要時の追加説明など、申請手続全体を代行・支援し、申請者の心理的負担を軽減します。
(4) 家族・関係者の調整
日本人配偶者・子どもや雇用主との協力が必要な場合、証言や協力文の準備支援も可能です。
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